2006 宣言・声明

緊急声明●

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「指紋復活」の入管法改悪案に反対する

 

 

「あなたたちは王の奴隷となる。その日あなたたちは、自分の選んだ王のゆえに、泣き叫ぶ。しかし、主はその日、あなたたちに答えてはくださらない」(サムエル記 上8:17~18)

 

 

2000年4月、「外国人登録法」(外登法)の指紋押捺制度が全廃された。これは、1980年から始まる在日コリアンなど在日外国人の粘り強い闘いによってもたらされたものである。

 

それまでは、日本に1年以上居住する14歳以上(1982年から16歳以上)の外国人は、5年ごとの登録切り替えのたびに繰り返し指紋押捺を求められていた。もし押捺を拒否すれば、「1年以下の懲役もしくは禁錮、または10万円以下の罰金」が科せられた。つまり、任意の押捺などではなく、刑事罰に担保された強制制度としてあった。日本国民の戸籍や住民票の身分登録においては、定期的な切り替えも、指紋押捺も、その証明書の常時携帯義務もない。それにかかわらず、外国人にはそれを強制する。

 

こうした不条理に対して1980年、在日コリアン一世が区役所で指紋押捺を拒否した。そして、この「たった一人の反乱」に、在日三世の14歳の中学生・16歳の高校生をはじめ、多くの在日外国人が続き、1985年夏、指紋押捺を拒否あるいは留保する外国人は1万人を超えた。これは、自らの良心に基づく不服従行動であり、人間としての尊厳をかけた闘いであった。

 

1980年代、警察の任意出頭に応じないで逮捕された指紋拒否者は22人、在留更新を不許可とされた指紋拒否者6人、在留期間を短縮された指紋拒否者3人、再入国申請を不許可とされた指紋拒否者は107人に上った。外登法は1988年、1回押捺制への変更、1993年、永住者・特別永住者だけ指紋制度免除、と改定されていったが、闘いは止むことがなかった。そして2000年、すべての外国人に対して指紋制度が全廃されたのである。

 

 

しかし今年3月、政府は、日本に入国する16歳以上の外国人(特別永住者や外交官などを除くすべての外国人)に対して、生体情報(指紋および顔画像)を登録させる「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改定案を国会に提出した。6年前に全廃された「外国人指紋」を復活させようというのである。

 

いま日本に入国する外国人は、年間675万人に上り(2004年)、その数は今後とも増加していくことは確実である。この675万人のうち、今回の改定案の対象外となる16歳未満や特別永住者、外交官などを除いても、400万~500万人になる。その多くは、短期滞在(在留期間15日・30日・90日)の「観光」(311万人)と「商用」(129万人)を目的に来日した外国人である。すなわち日本は、21世紀の課題として「観光立国」「経済の自由化」を標榜する一方で、それを制御する「いやがらせ政策」をとろうとしている、としか考えられない。

 

また、「日本に入国する外国人」572万人のうち、日本で「永住者」「日本人の配偶者」「留学生」などの在留資格を持ったまま帰国や商用でいったん日本を出国して「再入国」する外国人は年間124万人となる。このうち、改定案の対象となる外国人数は公表されていないが、少なくても50~80万人となるであろう。そして、この数も今後増えることは確実である。

 

もし改定案が成立すれば、彼ら彼女らは、再入国の際、指紋を拒否することなどできない。日本での仕事、家庭、勉学を中断することになるからである。しかし彼ら彼女らは、法務省による厳格な審査(時には家族離散をもたらすような過酷な審査)を経て、「永住者」「日本人の配偶者」「留学生」などの在留資格と再入国許可を付与されているのに、再入国のゲートで再度、指紋と顔画像による「審査」を受けなければならないことになる。

 

 日本において指紋押捺を強制されるのは、警察による逮捕時、刑務所など矯正施設の収容時、入管法違反容疑での収容時だけであり、いずれも国家機関によって身柄が拘束されての強制押捺である。したがって、今回の改定案は、観光や商用で「新規入国」する外国人に対しても、また日本に定住し「再入国」する外国人に対しても、日本に入国・再入国するには、任意ではなく「強制」として、「踏み絵」として指紋押捺を課せられることになる。しかも、そのとき登録された指紋は、生涯にわたって日本政府によって「保管」され「活用」され続けることになる(3月17日・衆議院法務委員会)。

 

 いま日本国民は、年間1600万~1700万人が日本を出国し、ほぼ同数が帰国している。日本国民は帰国の際に「指紋」も「顔画像」も登録されることはない。国民には求めないが、外国人にはそれを強制する。これは、明らかな人種主義である。

 

 

 昨年7月、国連の人権委員会が任命した「現代的形態の人種主義・人種差別・外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者」であるドゥドゥ・ディエン氏が、日本を公式訪問した。彼は9日間にわたる調査をもとに作成した報告書を今年1月24日、国連に提出した。

 

 彼はその報告書の中で、「日本には人種差別と外国人嫌悪が存在する」と指摘し、24項目にわたって包括的な勧告を記している。その中で、2004年2月から実施されている「密告」制度に対してこう言及している。

 

「法務省入国管理局のウェブサイト上において導入された、不法滞在者の疑いがある者の情報を匿名で通報するよう市民に要請する制度は、人種主義・人種差別・外国人嫌悪の煽動である。この制度は、本質的に外国人を犯罪者扱いする発想に基づくものであり、外国人への疑念と拒絶の風潮を助長する。したがって、この通報制度は遅滞なく廃止されなければならない」(同報告書パラグラフ81)

 

 同様に、今回の入管法改定案もまた、本質的に外国人を「テロリスト」「犯罪者」扱いする発想に基づくものであり、「人種主義・人種差別・外国人嫌悪の煽動」と言うほかない。

 

 さらに指摘されなければならないことは、外登法にしろ入管法にしろ、その対象者となる外国人の意見表明の場を設けようともせず、彼ら彼女らの意思を無視して策定され決定されていくことである。これは、「民主主義」の基本原則から大きく逸脱するものである。

 

 もし日本政府が「国連の常任理事国」入りをめざそうとするならば、当然、この国連特別報告者の次のような建設的な「助言」と「勧告」を受け止めるべきである。

 

「政府は、マイノリティ集団に関連して採択される政策や立法に関し、マイノリティ集団と協議すべきである」(同報告書パラグラフ83)

 

「政府は、もっとも高いレベルにおいて、日本社会における人種差別・外国人嫌悪の歴史的・文化的な根本原因を、正式にかつ公的に認め、これと闘う政治的意思を明確かつ強い言葉で表明すべきである。そのようなメッセージは、社会のあらゆるレベルで差別や外国人嫌悪と闘う政治的条件を作り出すだけでなく、日本社会における多文化主義の複雑な、しかし深遠なプロセスの発展を促進することになるだろう。さらに、グローバル化の文脈において、そのようなメッセージは世界、とりわけ日本と経済的関係がある国々やその市民あるいは国民が、日本に移住しまたは日本を訪問している国々において、日本の評価およびイメージを高めることも間違いない。観光や仕事上の理由で外国をますます訪れるようになっている日本の市民は、自らが受けるかもしれない差別行為と闘うのみならず、自国のイメージを促進する上でも、より道徳的に強い立場に立てることになるだろう」(パラグラフ74)

 

 

 日本は2000年4月、「外国人指紋制度」を全廃した。それは、日本社会だけではなく世界に向かって、外国人と自国民との「共生」への第一歩を踏み出す宣言としてあったはずである。

 

 私たち日本人も在日外国人も、1980年代、1990年代と、「共に生き、共に生かし合う」社会をめざしてきた。その中から、「外国人住民基本法(案)」を提起するに至った。これは、「国民」対「外国人」という「隔ての壁」を取り除き、自民族中心主義によるグロテスクな「国民国家」を超えて描く、「共生」と「平和」への私たちのビジョンである。

 

この小さくても確固とした共同作業を、今回の改定案で水泡に帰することはできない。なぜなら、改定案の「当事者」とは、じつは指紋を強制される外国人ではなく、指紋押捺を強制する「私たち」であるからである。

 

 日本政府と国会は、「外国人指紋」を復活させようとする入管法改定案をただちに廃案とすべきである。

 

 

2006年3月22日  外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会

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