外国人住民基本法 解説

解説-第1部

日本には、現在150万人を越える外国人が生活しています。戦争の結果日本に住むことになった在日韓国・朝鮮人をはじめ、留学生や仕事で日本に来ている人たち、国際結婚をした人たち、また旅行目的の一時的な滞在者など、本当に様々です。

この基本法の目的(第1条)は、外国人を「管理」するための法体系をあらため、こうしたすべての外国人についての「人権」を保障することです。

現在の日本の法律では、日本での滞在の目的や、滞在を許可された期間に応じて、活動の自由は大幅に制限されています。また、日本で生活するための滞在許可が得られない外国人、許可された期限が切れてしまった外国人については、病院での治療を拒否されるなど、生きていくための最低限の権利さえ奪われがちです。国連などが定める国際人権法では認められているのに、日本では認められない権利がたくさんあるからです。

この基本法の作成にあたっては、「国際人権規約」や「人種差別撤廃条約」「難民条約」「外国人の権利宣言」など、国連が採択した、また日本政府が加入した人権に関する条約、そして日本がまだ批准していない「移住労働者の家族とその権利条約」などが参考にされました。

日本社会が国際化を実現し、人権先進国となるためには、日本がまだ批准していない国際的な人権に関する条約の批准を積極的にすすめていく必要があります。

第3条では国と自治体の責任について述べています。現在法務省の下に人権擁護局や外国人相談所などが設けられていますが、外国人の権利を守るためには、まったくといっていいほど役だっていません。例えば外国人が裁判を受けようとすると、きちんとした通訳がつかないために、しばしば本人に不利な判決を受けてしまいます。本当に外国人の権利を守れるような組織を国や自治体が作ること、また外国人に正当な裁判を受ける権利を保障することなど、一貫した外国人政策が必要です。

解説-第2部

第2部では、出入国の権利と日本に在留する権利についてあつかっています。日本では在日韓国・朝鮮人などには永住資格を認めていますが、現在の日本の永住資格は、「永住権」とは呼べない不完全なものです。たとえば、日本の永住資格を持った人たちが海外旅行などで一時出国した場合には、法務大臣の裁量によって与えられる「再入国許可」が必要とされているのですが、時として法務大臣はこの再入国許可を出さないことがあるのです。1980年代には、指紋押捺を拒否した人たちに法務大臣が再入国許可を出さなかったため、海外に留学した在日二世の女性が永住資格を失うという事件も起こっています。

第5条では、こうした大きな問題がある現在の永住資格を、ほぼ日本国民と同じ権利をもつ「永住市民権」のようなものにしたうえで、一定期間の日本での生活を条件として、申請により自動的に永住資格が得られるようにしようとするものです。現在の制度では、何が永住資格の許可基準かはっきりしてないうえ、実質20年以上も継続的に日本で生活していなければ、永住資格は得られないのです。

第6条は退去強制についてです。在日韓国・朝鮮人が日本で暮らすことになった経過を考えれば、おかしなことですが、現在の法律では、たとえ在日であっも、一定以上の有罪判決を受ければ、法務大臣の判断によって国外に強制退去させられてしまうのです。そこでこの基本法では、永住者にはこの強制退去を適用しないことにしました。

第7条の背景には、オーバーステイなどで強制退去させられた外国人の親子が離ればなれになり、入管法の壁に阻まれて長期間再会できないという非人道的なケースが頻発している事情があります。日本も批准した「子どもの権利宣言」には、親子の再会の権利が明記されていますが、政府は外国人住民の家族再会と家庭構成の権利を認めようとしていません。そのため、家族の再会の権利を明記し、保障しようというものです。

解説-第3部

この第3部は国際人権規約などが定める外国人の権利についての他、公務員就任権、社会保障・戦後補償を受ける権利についてもそれぞれ明記しています。

外国人の人権をめぐる日本の現状は、こうした国際的な人権基準を再確認する必要性を感じさせます。

たとえば第8条C項にかかわる部分では、刑事事件での取り調べが当事者の理解できない言葉で行われ、黙秘権や弁護士選任権なども知らされないままに「自白調書」が作られて起訴された事件が、裁判の過程で問題化したケースもあり、潜在的な人権侵害の多さが想像できます。

また第9条a項でも、在日韓国・朝鮮人に対する就職差別はいまだに残されていますし、移住労働者はその不安定な在留資格のゆえに不当な低賃金で働かされています。b項も同様です。もしあなたに留学生の友人がいるなら、留学生が日本でアパートを探すことが、日本人よりはるかに難しいことを教えてくれるでしょう。

第10条は、これらの権利を実質化させるために、アファーマティブ・アクションなどでの「結果としての平等」の保障を求めることが出来る、としたものです。

第11条は、永住資格を持つ外国人に、地方公務員や公立学校の教諭として働く権利を保障するものです。政府はこれまで外国人住民が公務員として働く権利を認めてこなかったため、公務員や公立学校で働く外国人は、ほんの一握りに過ぎません。現在でも外国人の採用を全く認めない自治体が20%もあるなど、採用に制限を設けている自治体かほとんどです。公立学校でも教諭としては採用されず、常勤講師としての採用にとどまっています。

第12条では、生活保護制度や年金制度など、これまで外国人が排除されたり、権利が制限されてきた社会保障制度について、日本国民と平等の権利を認めています。さらに現在日本国民のみを対象として在日韓国・朝鮮人などが排除されてきた戦傷病者戦没者遺族等援護法などの戦後補償法について、それぞれの法律の施行された時点にさかのぼって適用が受けられるよう定めています。生活保護法や年金制度においても、外国人への著しい不利益を解消しようとするものです。

解説-第4部

現在日本政府は、国内の外国人住民を、自由権規約が規定するマイノリティと認めていません。しかし、これは国連の規約人権委員会の意見と真っ向から対立するものです。第13条は、この点で規約人権委員会と同じ立場をとります。

第14条では、日本国内において著しく制約されている民族教育を受ける権利や、民族名を名のる権利について明記しています。現在の教育制度では、在日韓国・朝鮮人のみならず、急増している新渡日の人々の子どもたちにも、多文化・多言語教育を保障していくことは困難です。また、韓国系・朝鮮系の民族学校についても、一般の私立学校に対する1割程度しか補助金のおりない各種学校扱いですし、国立大学のすべてと私立大学の約40%は、これら民族学校からの受験資格を認めていません。民族名を名のる権利についても、民族名を名のったために学校でいじめられたり、就職活動の際に通名の使用を採用の条件とされるなど、日本社会において民族名を使用することには、さまざまな制約が伴います。こうした日本社会の在り方を変えていくための具体的な措置が求められているところです。

また第15条では、帰化した在日韓国・朝鮮人や、父母のどちらかが在日である日本国籍を持つコリアンマイノリティを含めて、外国人住民のマイノリティとしての権利を保障していくために、民族教育の保障と促進など具体的な取り組みをすすめる責任が、まず国と自治体にあることを明記しています。

解説-第5部

この基本法では、日本に住む外国人を、地域住民という観点から捉えていますが、こうした観点から外国人の権利を考えるとき、自治体の果たす役割を軽視することはできません。外国人は、日本国民ではなくとも、自治体の「住民」であることに変わりないからです。

現在、日本籍住民は「住民基本台帳法」によって自治体に登録されますが、外国人住民は国が直接管理したうえで、その事務作業のみを自治体に委任しています。外国人住民にも課税対象者として負担を負わせておきながら、住民としてのサービスが充分なされないような現在のシステムは改める必要があります。登録に必要な項目は、住民としての正確な記録として、住所・性別・生年月日・出生地・国籍などで充分であり、現行の外登法にある勤務先の名称や住所、また外国人登録証の常時携帯義務などは廃止すべき不要な制度です。(もちろん、現在の戸籍・戸籍付票・住民票による日本人管理のあり方にも大きな問題があります。)

1995年、最高裁判所は永住権を持つ外国人住民が地方参政権を行使することは憲法に違反しない、と判決しました。このことは、外国人住民が地方参政権を持つことが出来るかどうかは、法律の立案を任務とする国会の問題、つまり投票権をもつ一人ひとりに委ねられた問題であることを意味しています。

解説-第6部

これまで見てきたように、ここに提案されている基本法は、国や自治体の外国人政策について、法の目的を含めて、総合的かつ根本的な変革を求めるものです。当然のことながら外国人住民の日本での生活全般が対象となるわけですから、関係する省庁も多岐にわたります。国際人権法が求める人権規準を踏まえたうえで、こうした新たな法律を実施していく場合に起きてくる問題に対処するため、外国人人権審議会の設置が提言されています。外国人についての法律を審議するのですから当然審議員の過半数は外国人として、外国人の意思が直接反映される形にしなければなりません。こうした審議会として、川崎市ではすでに「外国人市民代表者会議」が設置されており、具体的な答申を市政に対して行っています。

現在の外国人登録法が施行されたのは1952年のことです。以来、この外登法は部分的な手直しを重ねながらも、基本的な法の骨格は変化することなく、現在の多様化する外国人住民を縛り続けています。今まさに、外国人の登録事務にとどまらない、広範な外国人住民の人権規範を示す新たな法律の制定が待ち望まれています。

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